戦争は憎しみと愛のカクテル

      森 国久

 

  この靴鋲の下が広東だ
  人のいない広東
  太陽ばかりが居座っていた広東

  炎々と天に立つ火の柱の広東で
  私は二人の親なし子を拾った
  おどおどとしたこの少年二人も
  人の心の暖かみは知っていた

  戦争は憎しみと愛のカクテルだ
  私たちは私たち自身
  二人の少年により
  暖かみをかえり省みるのを知った
  汕頭(すわとう)作戦から
  三ヶ月ぶりにかえ還った時
  二人の少年の姿を見なかった
  私たちは落とし物をしたときのような
  変な気持ちで.......
  矢張り少年の幸せを
  祈るのだった
  無意識に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[解説]
これは、広東の人気のない街の一角で、森国久ら
日本軍の兵士と、二人の中国の親なし子がおさ
まっている写真に添えられた詩である。
1939(昭和14)年、国久27歳のときに作られた詩。
「人のいない広東」は日本軍(第21軍)が制圧していた。
日本と中国の不幸な関係がここには暗示されている。

(H.U.)